2023年5月1日月曜日

「普通」からはみ出した層で出逢い直す 2023年5月1日

 「普通」という基準をなんとなく意識させられる場所で、その視点から自分を見ると随分はみ出している。けれども、そのぶん別の層へと染み出しているのかもしれない。そんな自分の目線を通して改めて人々を観察してみると、「普通」からはみ出して、別の層へ染み出している人々を見つけることができる。

あなたにしか見えないダンス2023の上演を終えて、少しずつ自分が何をしようとしていたのか、その潜在的な求めが見えてきた。

インストラクションと私自身の体を通して「普通の日常」とは別の層を、あの空間の中に開いてみようとしたのかもしれない。そして、違った層で見にきてくださった方々と出逢い直してみようとした。空間の中で何が見えるかは、そこでの営みをしている人々の振る舞いが大きく影響しているように思う。そして振る舞いはたいてい、何かしら構造的なものに振り付けられているようにも思う。でも、子供にはいろいろな層がまだ見えるのかもしれない。私があの空間でやっていたことをいち早くかぎつける。背中越しにも気づいて振り返る。

あの空間の中でお掃除のおばさん、おじさんは自分の気配を消しているように見えた。それは周りの人たちが彼らの存在をないものとして処理してしまうからなのかもしれない。自分も昔、警備員のバイトをしていたとき「いない人」のようになっていく自分の存在が危うく感じたことがあった。そして、別の層を開くとき、私の目からお掃除のおじさん、おばさんの存在感が浮き彫りになって見えてくる。彼らの肩から背中にかけてのセンサーが敏感になっている気配を強く感じる。そして、彼らは私の存在が気になって仕方がない。もちろん職業的な使命とも関係しているかもしれないけれど。また、ゲームセンターの中では、何かしら別の層に染み出している人々の気配を多く感じた。ゲームセンターの奥へ行くほどその気配は濃くなり、室内の音と共に深海の深度が濃くなるように感じた。

別の層を開くひとつの呪術的なきっかけとしてイメージの力は助けになった。あの場所がかつて海だったこともあり、海、水、潜水艦、海底などいろいろなイメージを使って、さらに別の層を引き寄せる。観覧車は私にとって、見た目のインパクトだけでなく、まわる、遠のく、近づく、そういった構造が思っても見なかった別の感慨を沸き立たせてくれた。イメージと一緒により集中して別の層へ移行し、出逢い直す装置となった。

何かを作ったり発表したりするとき、自分の潜在的に求めているものを手繰り寄せながら、わからないまま走り出すしかないけれど、それが前より見えてきた時にはもう少しどうするべきだったのかも見えてくる。それはちょっとした後悔を伴った苦しい瞬間でもあるけれど、同時に次のことを発想して前へと自分が押し出されてくる時でもある。この感覚はとても久しぶりだ。